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社会学名言集

知的職人論

「少なくとも心に確実な実例をもたぬまま、三頁以上を書きとばしてはならぬ。」
(C・ライト・ミルズ)

 アメリカの社会学者ミルズの『社会学的想像力』からの一節。付録に収められた「知的職人論」のまとめの部分に出てくるフレーズです。出典は、ミルズ『社会学的想像力』鈴木広訳(紀伊国屋書店1965年)293ページ。

 とくに解説は必要ないと思いますが、今年の社会学会の感想として提示しておきます。通常「社会学的想像力」というと、ミクロな場面とマクロな構造とをつなぐことと解説されると思いますが、それはもちろんそのとおりではありますが、もっと具体的な場面では、案外この一節が象徴的だと思います。言ってみれば、ものを書いたりしゃべったりするときの緊張感の問題です。

 その個所を引用しておきましょう。

(3)作業が必要とするならば超歴史的な概念構成を敢えておこない、歴史下的瑣末事をもきわめつくせ。全くの形式的理論を、さまざまのモデルを、可能な限りよく構成せよ。微細な諸事実とそれらの相互関係を詳しく吟味し、特殊な大事件をもたちいって検討せよ。しかしながら、それのみに終始してはならぬ。これらすべての作業をつねに歴史的現実のレベルに密接に関連せしめねばならぬ。他の誰かがいつの日か、どこかで君に代ってしてくれるなどと考えてはならない。この現実の規定こそ自己の課題そのものである。その現実によって自己の問題を定式化し、その現実のレベルでその問題を解明し、それに含まれている公的私的な諸問題をも解決すべくつとめよ。少なくとも心に確実な実例をもたぬまま、三頁以上を書きとばしてはならぬ。

「他の誰かがいつの日か、どこかで君に代ってしてくれるなどと考えてはならない。」というのがいいですねえ。社会学史でいうと、ジンメルに対するウェーバーの関係がそれにあたるように思います。ウェーバーの社会学的発想はたいていジンメルにもあって、たいていジンメルのほうが先行しているのですが、ジンメルは本質的に哲学者ですから、思いつきを書き散らして「あとは頼むよ」というところがあります。ま、「思いつきの天才」ではありましたが。ウェーバーの偉大さは、それをきちんと歴史的現実と結びつけて議論したところにあります。ミルズはマルクスよりもウェーバーの影響が強い人ですので、ここでもウェーバーが想起されているように想像します。

 最近はすっかり構築系にはまっている私がいうのも変ですが(ああ、ほんとに変だ)、とくに理論系では歴史との乖離があまりにありすぎるように思う今日この頃の日本社会学。言説に緊張感がなく、ミルズのいう「ビザンチン的奇習」(292ページ)が蔓延しています。

 なお、社会学的想像力については、標準的かつコンパクトな解説が「社会学感覚」にあります。「4-1 社会現象の総合的性格」をご覧ください。しかし、これはほんのさわりしか書いていないので、本格的な解説と批判的考察については、伊奈正人『ミルズ大衆論の方法とスタイル』(勁草書房1991年)をぜひご覧ください。それから、論文の書き方については、日本社会学会が「社会学評論スタイルガイド」をこの夏に出しています。ウェッブでご覧になれますので、こちらも参照されるといいでしょう。この試み自体、危機感の現れであると私は理解しています。

1999年10月12日執筆・公開

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SOCIUS.JPドメインへの初出 1/5(Wed), 2005  
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