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宗教報道の社会学


[6]過剰とタブー化が生み出す新ブーム――郷愁とともに現象する新しい宗教世界

初出 『聖教新聞』2000年7月18日付


保守主義と市民主義

 戦後の宗教報道は二つの宗教観で動いてきた。

 一つは保守主義である。戦時体制と意識を引きずった保守的な政治構造に連結したメディアによってなされた流れである。もう一つは市民主義である。戦後民主主義とシンクロ(同期)した進歩的な文化人やメディアがそれにあたるが、宗教を前近代的遺制と見る素朴な近代化論に立つため、宗教そのものを認めなかった。戦後宗教報道の批判的論調はおもにここに淵源を持っている。そのため「マインドコントロール」などという、それ自体がオカルト的な概念によって宗教現象を理解したつもりになっていたのである。

 いずれにしても新宗教の存在自体が否定されることになる。日本の宗教報道がさまざまな新宗教教団を次々に俎上に上げて頭ごなしの批判を浴びせ続けてきたのは当然の流れだった。

 多くの教団はこのような批判的宗教報道を機に組織改革を進め、独自のやり方を修正してきた。その意味で日本の新宗教全体が宗教報道によって「より安全な」存在に馴化(じゅんか)されてきたと言えるだろう。

 しかし、ではなぜその先にオウム事件が起こってしまったのか。

 その背景的要因には、こうした日本の特殊な宗教報道の存在があると思う。つまりオウム事件は、こうした否定的宗教報道自体への反感と抵抗と怨念の表現ではなかったろうか。そしてさらにオウム報道(および何でもありの批判的宗教報道)自体が新たな宗教状況を準備してしまったのではないかと私は危惧している。

オウム報道のタブー化

 周知のように一連のオウム事件については過剰なまでの報道がなされた。これは事件の凶悪性と規模を考えると当然であろう。しかし当時の子どもたちにはよくわからなかっただろう。しかし十代後半ぐらいになると「あれはいったい何だったのか」と気になる人たちが出てくる。尾を引くのはいつも「少し遅れてきた者たち」なのである。

 ところが、いまオウム報道は、あのとき実際なにがあったのかということをきちっと伝えない。あまりに周知のことだから、裁判で判決が下ったことを淡々と報告して、そのつど識者のコメントを加えるだけである。とくに人権が絡むため、焦点となる地下鉄サリン事件や幹部刺殺事件のシーンは控えられている。それは、後から来た者にとってはタブー化と映り、いっそう思いが募る。

 インターネット上にオウムに関する言説が満ちあふれているのはその表れである。担い手は、教団とは縁もゆかりもない若者たちばかりだ。すでに「オウマー」という呼び方さえある。といってもオウムシンパではない。スタンスはいろいろだ。共通点はひとつ。それは「もっと知りたい、もっと語りたい」ということだ。そしてかれらが一様に攻撃するのはマス・メディア上の言説とコメントする人たちの「良識」である。つまりそこで語られ続けているのは、宗教報道の「良識」に対する感情的な対抗言説なのである。それはオウムそのものと本質的には同じ言説である。

 このような言説空間を母胎にして(もちろんコミックやアニメやゲームもその派生体である)、ある種のノスタルジックな宗教的再生が起こりつつあるのではないか。

創造されるノスタルジー

 オウム事件のとき小学生だった世代のトップはそろそろ十八歳になる。この世代の少年犯罪において暴力的衝動がしばしば疑似オウム的宗教世界によって正当化されているのを発見して私たちは驚く。しかし私たちに見えているのは、あくまで暴力行為に直結したものだけである。それはこれから生じることの先駆形態にすぎないのかもしれない。この世代が一様に体験したオウム事件という「メディア上の出来事」―― これが、子ども時代の茫洋とした記憶(あるいは「懐かしい」という感覚)とともに神話化するであろう宗教的世界は、まだ私たちにははっきり見えていない。

 現在への不満が逆照射され、過去にあったものが好ましく思えてくるとき、直接体験していない「オウム的なるもの」(おそらくそれはオウムそのものではないだろう)に理想状況が投影されて、それを「懐かしく思い出す」(実際には新たに再学習されたものを自分の過去に組み入れる)人びとが一斉に現れる可能性がある。それが現実社会の中で鮮明に像を結ぶとき、日本の宗教報道(とりわけその前提的宗教観)の破たんもまた明確になるはずである。

(完)

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SOCIUS.JPドメインへの初出 1/21(Tue), 2003  
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