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ビーケーワン書評コラム

ミックス定点観測

[8]それでも若者は出版界にあこがれる(2001.5.19)

出版大崩壊
著者:小林 一博著
出版:イースト・プレス
発行年月:2001.4
本体価格:\1,500


 私は都内の私立大学で四年生のゼミをもっています。もちろん就職活動真っ盛りで、それにもかかわらず、なぜか就職戦線終盤戦の雰囲気が先行して、あせっている学生さんもいるようです。景気のいい話と厳しい話がないまぜになって「人生いろいろ」を実感させられています。

 そんな中で依然人気の高いのが出版社。給料が高く、オシャレで知的で、仕事の成果がハデでわかりやすいので、むりもないことだと思います。でも、それが果たして将来性のある業界なのかというと、けっしてそうではありません。書店業界では『本ころ』と略称されて盛んに引き合いに出されている佐野眞一『だれが「本」を殺すのか』が描いているように、出版業界は今何が起こってもおかしくないような脆弱な状況になっています。

 本書『出版大崩壊』は、業界のご意見番的存在である著者が内側から具体的な経緯とデータを駆使して、憂慮すべき事態に至った出版界の問題を系統的に論じたものです。この一冊で出版界のどこが危機的かが一覧できます。かっちりと書かれているのですが、すべて固有名詞の世界で、しかも驚くべき実態そのものに引き込まれて読んでしまいます。

 少年ジャンプがピーク時から350万部も(!)部数を減らしていること。バブル崩壊後から出版点数が1.5倍にふくれあがっていること。経営危機的な版元ほど点数が多くなる取次事情。大型書店の倒産と大規模店舗の増大というちぐはぐさ。新古書店増加による新本書店の万引き増加。それぞれに理由があり、かなり大きく業界を混乱させている事態が山のように存在していることを改めて突きつけられます。

 考えてみれば、これらはみんな90年代後半から一気に生じているわけで、私たちは現在とてつもなく特殊な状況におかれているのだと思いました。つまり「特殊な状況」だという危機意識・歴史認識が一般には薄いように感じます。

 それに対して著者はかなり具体的に提言をしていますが、出版界全体でホンダより小さい規模だという小さな業界なのに、自己改革できずにこのまま「大崩壊」へ突き進んでしまうのでしょうか。

 そんなことを知らずに(あるいはうすうす知っていながら)出版にあこがれる若い人たちに本書を薦めたいと思ってしまうのは、たんに年寄りの冷や水ではないはずです。(2001.5.19.nom)

【目次】
1章 出版界総倒れの恐怖
2章 パニック必至の流通崩壊
3章 ごま書房にみる「出版大崩壊」
4章 IT革命は出版の息の根をとめるか
5章 なぜ自己革新できないのか
6章 「出版文化」の火を消すな!


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SOCIUS.JPドメインへの初出 7/20(thu), 2002  
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