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ビーケーワン書評コラム

ソックス定点観測

[17]ハンバーガーが構築する食物連鎖の鉄の檻(2001.8.13)

ファストフードが世界を食いつくす
著者:エリック・シュローサー著,他
出版:草思社
発行年月:2001.8
本体価格:\1,600


 私ははじめ本書をエコロジカルな外食産業批判の本だと思っていた。人びとの嗜好や流行とのかかわりのなかで「食」を問うという、よくあるパターンだと思っていた。ところが読み進むうちに、それが大きなカンちがいであることがわかった。

 私たちがひとつのハンバーガーを食べる。私たち自身が何者かによって食べられることはほとんどないから、その瞬間は食物連鎖の最終局面である。この食物連鎖は、ハンバーガーにいたる人間や動植物の命をかけた相互作用の産物である。しかし、これは偶然にできたものでもないし、歴史の必然でもない。特定の人たちが組織的につくりあげたものだ。

 著者は、いま代金を払って食べられつつあるハンバーガーがどのような経緯によって成立しているのかを問う。凡庸な哲学者が「いまここにコップがあるとしますよね」と語りはじめるのと似ているが、その答は数年にわたる取材に基づく詳細かつ驚くべきものになっている。

 まず著者は歴史をたどる。マクドナルド兄弟からフランチャイズの権利をもらって一気に世界的な大企業に育てたクロック。かれの模範となった友人ディズニーとの手法の類似性。創始者たちのサクセスストーリーがひとしきりつづいたのちに、その帰結が示される。それはまるで「鉄の檻」のようだ。

 ファストフードショップで働く人たちの9割が時給で働くアルバイトである。徹底した製品の規格化によって、能力も技術もない10代の若者や外国人労働者を大量に雇用する一方で離職率も格段に高い。アメリカの最低賃金労働者はファストフード就業者だという。組合い潰しも露骨だ。

 店員だけではない。フランチャイズという甘い誘惑にかかった店長たちも、チキンナゲットのせいで再編された養鶏業者も、専属契約にしばられた牧場主も、そして過酷に加速された精肉工場で危険と隣り合わせに働く労働者たちも、みんな四苦八苦している。その働く人たちの犠牲の上で、このハンバーガーは安くて、いつでもどこでも同じ味がするのだ。著者はそれぞれの現場をくまなく取材していて、記述はどれも生々しい。

 こうして見ると、この本は本質的には「労働」を問う本である。フリーター全盛時代の日本の直近の未来像がここにある。そして使い捨てされる安い規格化された労働のつけがどのようなものか、本書は最後に明確に示している。そこから目を逸らせるべきではない。

 著者はいう。「ファストフード・チェーンに供給されるためにできた精肉システム――チェーンの要求を満たし、マクドナルドのハンバーガーがすべて同じ味になるよう、同じ挽肉を大量生産するべく形成された産業――が、病気を撒き散らすのに非常に有効なシステムであることが、明らかになってきた」と。その代表格がO-157なのである。詳しくは「肉の中身」という章にゆずりたい。

 象徴的にいえば、マイクロソフトでもなくAOLでもなく、私たちの胃袋におさまるマクドナルドのハンバーガーこそがグローバリズムの先兵なのであり、地球上のきわめて多くの人たちの生命と仕事のありようを決めつつあるということなのだろう。社会学者リッツァーはそれを「マクドナルド化」と呼んで批判的な本を書いて警告しているが、私はシュローサーのこの本を読んで、事態のほんとうの深刻さを知ったような気がする。読後には、なにげなく見てきた街の日常的光景が一変してしまう。

 原題は "Fast Food Nation"。邦題は草思社らしい苦心の作。原著は今年の1月に出たばかりだが、アメリカではかなり大きな反響を呼んだようで、ネット上でもたくさん書評がでていた。日本でも相当な波紋を呼びそうな問題作である。 (2001.8.13.野村一夫)

【目次】
第1章 創始者たち
第2章 信頼に足る友
第3章 効率優先の代償
第4章 フランチャイズという名の甘い誘惑
第5章 フライドポテトはなぜうまい
第6章 専属契約が破壊したもの
第7章 巨大な機械の歯車
第8章 最も危険な職業
第9章 肉の中身
第10章 世界的実現
終章 お好きなように


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SOCIUS.JPドメインへの初出 7/20(thu), 2002  
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