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ビーケーワン書評コラム

エディター書評2000-2001年

被害−加害関係を軸にした社会学的な環境問題史

環境問題の社会史
(有斐閣アルマ Interest)
著者: 飯島 伸子著
出版:有斐閣
サイズ:B6判 / 320p
ISBN:4-641-12097-8
発行年月:2000.7 本体価格: \2,100


 環境社会学には二つのパラダイムがある。ひとつは、北米の社会学者たちが、これまでの社会学を「人間特例主義だ」と批判して新たに提唱したもの。もうひとつは健康被害に焦点を当てて環境をめぐる紛争研究に焦点を当てたもの。

 前者(環境主義的社会学)は注目すべき論点ではあるものの、狭小な国土に人口が密集している日本にそのまま輸入できるかどうか、議論のあるところだ。それに対して後者(環境問題の社会学)はまさに公害先進国日本という文脈から、世界に先駆けて生成した系譜だ。これについては、環境主義の原典となったレイチェル・カーソン『沈黙の春』(1967年)よりも研究史ははるかに古い。

 飯島氏は後者の立場から、30年以上にわたって環境問題を研究してきた第一人者である(環境社会学会初代会長)。本書は、歴史的アプローチを得意としてきた著者の本領発揮とも言える社会学的環境問題史の総集編。この種のもので冗長なものはいくつかあるが、これだけ包括的にその歴史をコンパクトにまとめたものはない。文献リスト・文献案内も・索引も充実していて、環境問題を語るさいのハンドブックとして重宝しそうだ。

 流行としての環境問題はたかだか十数年の話だが、江戸時代からいくつもの節目をへて、今日私たちが目の当たりにしている環境の現実と環境問題があるということを一気に俯瞰させてくれる。

 意外におもしろかったのは、江戸時代と明治時代の環境対策の変化だ。鉱毒による環境破壊・健康被害としては足尾銅山事件が有名だが、じつは鉱毒問題は江戸時代からあった。しかし江戸時代には、ひとたび農民たちが被害を訴えると、たいていの藩は鉱毒の元をつきとめ、原因となった山を閉じたのである。それが明治の殖産工業政策の中で、しだいに健康被害を無視するようになってゆく。労働組合でさえ無視するようになって、私たちのよく知っている水俣の現実にいたるのである。日本が国民国家への道をめざして何を失ったかがよくわかる。

 本書には、もうひとつの軸があって、それは環境行動あるいは環境運動である。健康被害を受けた当事者たちによる被害者運動や住民運動だけでなく、エコロジカルな思想に基づく市民運動などによって、連綿と環境は守られてきたし、環境破壊や健康被害に対して異議申し立てがおこなわれてきた。歴史は人間がつくる――環境問題もまた、そうである。

(2000/08/22)

【目次】
序章 環境問題の社会史の視点
第1章 江戸時代の環境問題
第2章 殖産・軍事立国と公害・環境問題
第3章 戦後復興期の環境問題
第4章 高度経済成長と大量消費の時代
第5章 環境運動と環境対策
第6章 地球環境問題とアジア地域・開発途上国の環境
第7章 地球環境問題と少数民族・先住民族
第8章 高度消費文明と溢れる廃棄物
終章 環境問題への視点と歴史的把握の関係


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SOCIUS.JPドメインへの初出 7/20(thu), 2002  
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