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ビーケーワン書評コラム

エディター書評2000-2001年

「鉄の檻」と格闘した巨大な知性の足跡を追う

二十世紀を見抜いた男 マックス・ヴェーバー物語
著者: 長部 日出雄著
出版:新潮社
サイズ:四六判 / 423p
ISBN:4-10-337407-1
発行年月:2000.6 本体価格: \2,300

 これは小説家が書いたマックス・ウェーバーの評伝である。長部氏と言えば「津軽」との印象が強いので、意表を突かれた人も多いだろう。しかし、これはなかなかユニークなウェーバー伝だ。

 なにより作家の筆は自由である。話はなんと森鴎外から始まる。ふたりはふたつ違い。鴎外がベルリンに到着したとき、その街でウェーバーは大学生だったのだ。そんなところからビスマルクの話や、プロイセン・ドイツに学んだ明治政府が絶対天皇制へたどりつく話まで突き進むかと思うと、エミーとの有名な恋愛関係(彼女の精神の病いによって破綻したとされる)を疑ってみせたり、妻マリアンネとの関係描写や、愛弟子以上になったエルゼ(彼女の妹が『チャタレイ夫人の恋人』を書いたロレンスの妻)の話も詳しく書かれていたりする。両親に対する若きウェーバーの複雑な感情も手紙をもとに丹念に描く。

 ポリフォニックに話が展開する様は、コントやジンメルを語った往年の清水幾太郎のタッチを思い起こさせる。直進的な研究者ならイライラするところもあるが、ウェーバーの生きた歴史的世界(「鉄の檻」!)の立体的な把握をじっくり楽しみたい。

 後半は、絶頂期のウェーバーが、母親の処遇をめぐって父親と激しい口論になった事件――その父親は7週間後に客死してしまう――ののちに深刻な神経症に陥って、何も仕事ができなくなってしまうところから、行きつ戻りつの複雑な立ち直りの過程で名著「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を書き上げるまでを一気に追う。ここで読者は、ひとりの「社会学者」誕生の瞬間に立ち会うことになる。

 こうしてみると、ウェーバーは、その膨大な仕事にもまして、その人生の挫折と悲哀そのものが社会学的テキストだと思えてくる。

(2000/08/16)


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SOCIUS.JPドメインへの初出 7/20(thu), 2002  
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