Socius  ソキウス   著作+制作 野村一夫
 http://socius.jp 

現在地 ソキウス(トップ)>ビーケーワン書評コラム

ビーケーワン書評コラム

エディター書評2000-2001年

仕掛けられたアニメ番組?

 9月新刊のエディター書評では、「ポケモン」などの人気アニメの放送形態をテーマにした畠山兆子・松山雅子『物語の放送形態論』を取り上げます。アニメ論に関連して秀逸の一品斎藤美奈子『紅一点論』も読んでみました。


物語の放送形態論

著者:畠山 兆子著,他
出版:世界思想社
発行年月:2000.9
本体価格:\1,800

■コミックもCMも含めてなんぼのアニメーション

 人気アニメ「鉄腕アトム」「ドラえもん」「ポケットモンスター」の分析である。しかし、本書はおたく系の好きもの評論でもなければコレクション自慢でもない。正統派児童文学者によるアカデミックな内容分析だ。ついに児童文学研究も一歩を踏み出したかという印象である。しかしマスコミ研究が未だにアニメ分析の系統的な分析手法を確立していないことを思うと、メディア自体ではなく結局こういう文化的コンテンツそれ自体に習熟している人間がやるしかないのだろう。その意味ではアニメ研究が児童文学研究の大きな潮流となる可能性は高いと思う。

 3作にそれぞれ1章がふりわけられているが、やはり素材の新鮮な「ポケモン」の章がぴかいちである。複雑かつ周到なメディアミックス戦略についての解説は興味深いが、著者らのアプローチは、アニメそのものが描く物語をその〈環境〉との関連で読みとろうとするところだ。

 つまり、ふたつある10分少々のストーリーの前後にCMが入り、その前後に定型的なオープニングとエンディングがサンドイッチする形。本書ではこれを「物語の放送形態」と呼ぶ。この形式がアニメの場合、キャラクターと連動したCMであるために、CM自体が物語世界の基本構図を固定化し、変化するストーリーの〈読み〉を一定のやり方で誘導する。著者らはこれを「共鳴作用」と名づけ、アニメ版の主役キャラクターであるピカチュウの「人物造形」(キャラが立つまで)を説明する。

 たしかに30分アニメを見るということは、20分ほどの起伏のあるストーリーそのものと、伴走する「CMというつねに安定した小さな物語」および定型的かつ儀礼的なオープニングとエンディングをともに視聴するということであり、それらの相互作用によって子どもたちは(私たちも?)「手のひらピカチュー」が欲しくなったり、ニャースと自分の人生をダブらせたりするのかもしれない。

 アニメ以前の実写版アトムのファンだった評者としても、それなりに納得のいく資料調べもなされており、堅実な研究スタイル。ただし、こういう文化研究は「分厚い記述」と「切れのいいさばき方」こそ命であって、ポケモンだけで千ページを費やしてもおかしくない。本書はすでにプロジェクト第2作だが、今後はそういうものを読みたいと思った。


紅一点論

著者:斎藤 美奈子著
出版:ビレッジセンター出版局
発行年月:1998.7
本体価格:\1,700

 『物語の放送形態論』書評のついでに、これまで気になっていながら放置してきた『紅一点論』を読んでみた。

 本書はアカデミックなものではないが、資料の渉猟性といいブリリアントな分析力といい、「研究」に値する仕事である。子どもメディアにおける紅一点現象にテーマを絞っているが、約300ページの力作。アカデミックにやれば、この数倍の分量はいるだろうが、ただし読者は逃げてしまう。これでいいのだ。

 萬緑叢中紅一点――もともとは「凡夫の中に俊才ひとり」のこと。今では「男の中に女がひとり」の意味で使われる。著者はテレビの特撮ドラマやアニメーションと子ども向け伝記における紅一点現象について、その本質と変奏と構造を、膨大な作品群に即して分析していく。それはむしろ「喝破」に近いスタイルであるが、よく練り上げられたコメントには感心する。

「少女に救いは求めても、少女を救うことに、アニメの国は無関心だった」(208ページ、傍点省略)といったフェミニズム的言説を一笑に付すことはしたくない。その重みとここ30年のアニメ文化の蓄積が、すでに私たちの身体の一部になっていることを自覚しながら読めば、これは確実に内省の書である。


ポケモンの魔力

著者:大月隆寛+ポケモン事件緊急取材班編著
出版:毎日新聞社
発行年月:1998.3
本体価格:\1,500

 1997年12月16日のポケモン事件とその背景を徹底的に取材。たとえば構築主義的にポケモン言説を研究するさいには一級の基礎資料として役立つはず。短期間で取材された本だが、もはやこのくらいのフットワークがなければ批評にも評論にも研究にもならない時代である。


現在地 ソキウス(トップ)>ビーケーワン書評コラム
SOCIUS.JPドメインへの初出 7/20(thu), 2002  
このページのURLは http://
Kazuo Nomura(野村一夫) 無断転載はご遠慮ください。リンクはご自由に。
Valid XHTML 1.0!Document type: XHTML 1.0 Transitional