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ビーケーワン書評コラム

エディター書評2000-2001年

大人になることの困難をみつめよう

成人の日書評
ジョーンズ、ウォーレス『若者はなぜ大人になれないのか』新評論


 大学教員が三人集まると、何を話していても最後は「近ごろの学生はなんでこうガキっぽいの?」という話題に収束する。じっさい、手取り足取りの指導をしなければ何も始まらないという現実があって、大学教員は日々それに忙殺されているからだ。

 でも、学生たちはというと、サークルなど教員の目の届かないところでけっこうリーダーシップを発揮していたり、アルバイト先では健気に労働者していたりするのである。逆に、バブルに踊った後始末もできなかった大人たちの方が社会のルールを平気で無視していたりすることもあるわけで、そういう大人たちだって案外ガキっぽいんじゃないかとも思う。

 そして今年も成人式がやってきた。たまたま20歳になった男女が集められて、税金でなにやらサービスを受ける日になっているが、むしろ今の世の中で「大人である」とはどういうことなのか、じっくり自称大人たち自身が考える日にしたいものだ。

 さて、本書はイギリスの青年社会学の研究書。じつは近年大いに読書界をにぎわせた「パラサイト・シングル」論の知的源泉のひとつとなった本でもある。ちなみに『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)の山田昌弘氏は、訳者の宮本みち子氏らとの『未婚化社会の親子関係』(有斐閣)という共同研究でヤングアダルトの生態を追っていた。「パラサイト・シングル」はその中で「発見」されたものだ。

 『若者はなぜ大人になれないのか』によると「大人である」とは「自立したシティズンシップをもった状態」である。シティズンシップとは、言ってみれば「社会への完全な参加」のことだ。さまざまな権利と義務を果たす市民であること。雇用され、税金を払い、それなりの政治的権利と社会保障の対象となることを意味する。

 日本では「成熟」という心理学的基準で「大人であること」を測ろうとし、一昔前の「アダルト・チルドレン」の流行に見られるように、内面的な負の記憶が「大人であること」を阻害するかのような語りが一般的だけれども、本書の著者たちはそんな主観的でナイーブな言説には一顧だにしない。

 若者が大人になれるかどうかは、雇用・教育・社会保障といった公共領域、家族という私的領域との関係に大きく左右される。イギリスでは、雇用状況の悪化によって経済的自立が果たせず、教育課程の長期化によってますます宙ぶらりん状態がつづき、しかも離家してしまえば数々の保障が得られない社会保障制度になっている。若者に自己決定権があるようでいて、じつはアクセスの可能性が狭くなっているのだ。そのため大人への移行期間が長期化し、その分、家族への依存も長期化している。だから「大人になること」が困難になっているというのである。

 要するに、ある程度恵まれていなければ大人になれない。これが著者たちの言い分である。その点で、女性や高齢者や障害者やマイノリティも、この点では若者と同様ではないかと示唆する。

 この見方を日本に応用できるだろうか。日本では心理学的な「成熟」の基準で見るから「豊かであるがゆえに自立できない」とされてきたが、シティズンシップを基準とする本書の主張は完全にその逆になる。おそらく五年前であれば「それはイギリスだから言えるのさ」で済んだかもしれない。しかし、少子化が進んでほぼだれでも進学できる大学全入時代、ところがその出口では丸抱え的正規雇用がもはや高嶺の花になってしまっている現在、本書の分析は妙にリアルに思えてくるのである。大人になるのが困難な日本社会を若者たちは生かされているのかもしれない。ナイーブな若者たちの心象風景はその結果にすぎないと考えた方がよさそうだ。

 では、この困難をどうすれば切り開くことができるのか。そんなことを考えるヒントとして、橋爪大三郎『幸福のつくりかた』(ポット出版)を最後に付け加えておきたい。あれこれ読書してこの社会について思いめぐらせるのも、ひとつの大人のつとめである。

【目次】
第一章 青年期、家族、シティズンシップ
第二章 変わる教育制度、労働市場と若者
第三章 若者と社会保障制度
第四章 若者と家族――家族への依存と家族からの自立
第五章 離家と家族形成
第六章 消費市場、住宅市場と若者
第七章 青年期およびシティズンシップについて再び考える
付録 ポスト産業社会の若者のゆくえ(宮本みち子)


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