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ビーケーワン書評コラム

ほうとう先生の芋づる式社会学

第4回 構築主義論争の行方

 ビーケーワン開始当初、私たちは東大出版会の『内破する知』と『越境する知』シリーズについての編者インタビューをおこないました。そのさい、ひとつの理論的目標が共有されていることが私には印象的でした。それは「構成主義の次をめざす」というものです。「『それは構成されている』で済んだ段階は過ぎた。その次をあえて構築するんだ」という決意です。

 この点で「内破/越境」プロジェクトの先進性はあきらかです。しかし、読者の側では未だ構築主義そのものの実態が十分に理解されているとは言えないのが現状です。ごく一部の先進的な読者はともあれ、多くの社会理論系読者にとって構築主義は未知なままではないでしょうか。

 しかし、科学論的な文脈では、2000年夏から秋にかけて話題になり、サントリー学芸賞と山崎賞を受賞した金森修『サイエンス・ウォーズ』(東京大学出版会)が「社会構成主義の興隆と停滞」という長大な章で動向を詳細に紹介したおかげで、少しずつ周辺事情があきらかになりつつあります。

 ここで少し補足しておきますと、科学論や現代思想では「構成主義」という訳語が使われるようです。社会学では「構築主義」が使われますが、元のことばはいずれも "constructivism" か "constructionism" です。金森氏は「構築」は物象化された感じがするとして「構成」を使用されています。でも、ここでは社会学の通例に倣って「構築」でまいりましょう。

 現象学的社会学やフーコーなど、構築主義の起源はじつはいろいろあるのですが、社会学で採り上げられるようになったのは社会問題論の領域からです。ラベリング理論を批判的に克服するものとしてスベクターとキツセの『社会問題の構築――ラベリング理論をこえて』(マルジュ社)によって提唱されたのが節目でした。要するに、客観的な原因や事実があると想定して社会問題を論じるのは誤りであって、それらは社会問題を論じる人たちのクレイム申し立てによって定義され社会的に構築されるのだというのです。こうなると、各種統計データを駆使して社会問題の原因を語るような行為は、たんに問題構築に加担しているクレイム申し立てにすぎないということになります。平たく言うと「客観的事実? そんなもの、くそくらえ」という理論ですね。

 その後、多くの事例研究が現れ、構築主義は大盛況となるのですが、そこで生じたのが構築主義論争だったのです。きっかけになったのは「オントロジカル・ゲリマンダリング」という論文です。社会学者がたとえば「児童虐待問題は構築されたものだ」と論じるさいに、その社会学者自身があるものを「構築物」としているにもかかわらず、他のものを「事実」として自分の議論を組み立てている、そんな勝手な線引きがおこなわれているというのです。今思えば、これも「サイエンス・ウォーズ」と同じことが論争されたのでした。

 この全容がようやく翻訳で紹介されました。平英美・中河伸俊編『構築主義の社会学――論争と議論のエスノグラフィー』(世界思想社)がそれです。論争のきっかけとなった「オントロジカル・ゲリマンダリング」論文をはじめとして、それに対するイバラとキツセの解決編などが訳されています。

 また、構築主義の真骨頂は具体的問題の事例研究にあるのですが、その代表的な論文4編が訳されています。「行方不明になった子ども」問題がどのように構築されたか、売春婦の運動団体COYOTEが「労働としてのセックス」をどのような言説戦略によって構築したかなど、事例として興味深いものが紹介されています。後半の事例研究から読まれるといいでしょう。

 また、構築主義は社会問題だけでなく自己論においても新たな成果を見いだしています。片桐雅隆『自己と「語り」の社会学――構築主義的展開』(世界思想社)がそれです。私語に満ちた大学や成人式の喧噪を引き合いに出すまでもなく、「自分」と「他人」に関する社会的定義の崩壊を示唆する出来事が日常にあふれています。著者は「私化現象」と呼んで、この事態を分析してきた社会学者で、今回の本では、自己を構築する「語り」に着目して議論を展開しています。宮台真司さんたちの一連の議論などをもう一段理論的に再考するさいのヒントになるでしょう。

 「おまえはすでに死んでいる」と宣告された構築主義ですが、じつはまだまだ手つかずのままだということでしょう。そうした展開にも注目していきたいと思います。


◆『越境する知』
 最大の理解者だった如月小春氏を失った『越境する知』シリーズが、遅延しつつも、まもなく完結を迎えます。『内破する知』の段階で期待された全容がまもなくあきらかになります。楽しみです。

◆金森修『サイエンス・ウォーズ』(東京大学出版会)

◆平英美・中河伸俊編『構築主義の社会学――論争と議論のエスノグラフィー』(世界思想社)
オントロジカル・ゲリマンダリング スティーヴ・ウールガー著 ドロシー・ポーラッチ著 平 英美訳 18-45
道徳的ディスコースの日常言語的な構成要素 ピーター・R・イバラ著 ジョン・I・キツセ著 中河 伸俊訳 46-104
構築主義プログラムの再構成 ジェイムズ・A・ホルスタイン著 ゲイル・ミラー著 鮎川 潤訳 105-121
社会構築主義とその批判者たち ゲイル・ミラー著 ジェイムズ・A・ホルスタイン著 鮎川 潤訳 122-147
クレイム申し立てのなかのレトリック ジョエル・ベスト著 足立 重和訳 148-192 DSM−3における心的外傷後ストレス障害(PTSD) ウィルバー・J・スコット著 馬込 武志訳 193-232
罪としてのセックスから労働としてのセックスへ ヴァレリー・ジェネス著 大庭 絵里訳 233-270
差別から積極的是正策へ ダナ・Y・タカギ著 工藤 宏司訳 271-304

◆片桐雅隆『自己と「語り」の社会学――構築主義的展開』(世界思想社)


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