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ビーケーワン書評コラム

ほうとう先生の芋づる式社会学

第3回 ロックの文化社会学

 すっかり間隔のあいてしまった「芋づる式」ですが、心を入れ替えて連載を続けます。これからは、ちょっと力を抜いて書きますね。今回は音楽文化の社会学的研究にスポットを当てます。

 2000年12月、メディア社会学者の渡辺潤さんが『アイデンティティの音楽――メディア・若者・ポピュラー文化』(世界思想社)を出されました。これは追手門学院大学の紀要に連載された「ロックと時代精神」をもとに、20世紀の若者たちがつくりあげたロック文化を時代ごと・論点ごとに論じたものです。とてもバランスのとれた説明になっていて、団塊世代の思い入れを適度な距離感と歴史的文脈に即して説明している好著です。

 つぎつぎに更新されるメディア技術が導入されるなかで、人口が増大し教育機関に仮収容された形の宙ぶらりんの「若者」たちが、その特定の階級的地位とからんだサブカルチャーをつくりあげ、独特のライフスタイルと音楽を結びつけて育てていくプロセスがよくわかります。

 しかし、このプロセスは案外複雑で、たとえばイギリスではアートスクールの触媒的役割が指摘されていますが、中産階級の白人文化のロックが黒人音楽を摂取して人気を得たり、そういうものに対してブルーカラーの反撃があったり(パンク)、第三世界からの自己主張(レゲエ)が生じて音楽シーンを動かしていく。そのさまざまな転換点で反動や一種のねじれの関係が指摘されているのが興味深いですね。いつも異質なものを入れ子にしているところがロックにはあるように思いました。

 ロックは特定世代のアイデンティティと結びついた音楽です。その意味では、歴史概念としてロックを捉える必要があるということになるでしょう。今回、この本でたびたび引用されているポップ文化研究の翻訳書を調べましたが、ほとんどが品切れ状態で関連書として常備できませんでした。歴史は一巡して、同時代史ではなく純然たる過去として見直す段階にあることを各版元さん(とくに晶文社)にお知らせしておきたいですね。

 なお、この本はサイトと連動して展開されています。著者による「珈琲をもう一杯」(http://www.tku.ac.jp/~juwat/)をご覧ください。この本の制作過程でのやりとりや、出版後の反響なども読めます。

 さて、ほとんど同時期に、和久井光司さんの『ビートルズ――二〇世紀文化としてのロック』(講談社現代選書メチエ)がでました。ミュージシャンとしての該博な音楽知識に、非常にマニアックな時代考証を加えて書かれています。基本的にはビートルズ論の形を取っていますが、ビートルズは巨大なポピュラー音楽史の結節点(出会いの場)として位置づけられていて、それゆえ特別な存在であるという理解です。

 とくに独自に強調されている点は、ポピュラー音楽のルーツとしてのケルト音楽の重要性です。エンヤや「タイタニック」そして「リバーダンス」などで注目されているケルト音楽ですが、ビートルズの革新性はそれと黒人音楽を融合させたところにポイントがあると指摘されています。その他、いろいろな謎が解ける本でして、私がたいへん好きだった「アイ・ウォント・ユー」や「インスタント・カーマ」の謎も解けました。

 ところでポピュラー・カルチャーと言えば、カルチュラル・スタディーズの出番でもあります。かつてはどのように論じていいのかわからなかった嫌いがありましたし、アドルノの音楽社会学のように、研究者の属する高級文化の立場から大衆文化に資本主義的「物象化」を読みとるといった議論が多かったのですが、カルスタのおかげで自由な議論の作法が整いつつあるように思います。それによって、音楽社会学が現代文化論として実質的な成果を上げていくことを期待したいですね。

 その点で参考になるのが、小沼純一『サウンド・エシックス――これからの「音楽文化論」入門』(平凡社新書)です。従来の音楽の語り方をカッコに括るような語りの本で、ブレーンストーミングのトレーニングを受けているかのようです。膨大な蘊蓄を楽しみながら、自明化された音楽についての語り方を点検してみたいものです。

(2001年1月23日)


■『アイデンティティの音楽』01964698

 対抗文化世代メディア研究者による本格的なロック社会学登場! ロックの歴史を社会学的に読み解く決定版です。

【目次】
Iアイデンティティの音楽
1 個人的なロック体験から
2 キイワード
3 レコード、映画、そしてラジオ
4 若者と音楽
5 新しいメディアと新しい音楽
6 ロックンロールからロックへ
7 アイデンティティと対抗文化
8 文化産業としてのロック
9 アートスクールとポップ・アート
10 沈滞と新しい波
11 映像とサウンド、そしてダンス
12 若者の変容と中流意識
13 テクノロジーの音楽
14 アイデンティティの音楽
IIポピュラーの意味
1 ロックと音楽ジャンル
2 マスとポピュラー
3 大衆批判とエリート主義
4 ポップとロック
5 ポピュラー音楽としてのロック


ビートルズ(講談社選書メチエ 201)
著者名 和久井 光司著
書誌ID 01960913

 ビートルズが切り開いた音楽文化の源泉は何か、そとてかれらはその環境の中から何を新規に生み出したかを克明なデータによって説明してくれる、かなり徹底した音楽文化論。昨今はやりのケルト音楽の与えた意外に大きな影響など、周辺事情も興味深い。

【目次】
第一章 ビートルズ誕生までの経緯
第二章 デビュー前夜のビートルズがいた場所
第三章 時代の寵児となったビートルズ
第四章 ビートルズが起こした音楽/文化革命
終章 解散後に持ちこされた答え


01933578
高度成長 1961−1967
(毎日ムック シリーズ20世紀の記憶)


細川周平『レコードの美学』


 最近の音楽社会学では北川純子さんががんばっていて『音のうち・そと――音楽社会学試論』と『鳴り響く性――日本のポピュラー音楽とジェンダー』(いずれも勁草書房)があります。前者はテキスト的なテイストのある入門書で、後者はジェンダーと音楽の関係について10人の論者がじつに多様な論考を寄せています。


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