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ビーケーワン書評コラム

ほうとう先生の芋づる式社会学

第1回 自己言及するフィールドワーク

 社会学・メディア担当の野村です。インターネット上では「ソキウス」という社会学サイトを運営しています。このコラムでは、新刊書にかこつけて芋づる式にテーマを掘り下げ、とかく断絶しがちな知的テーマ文脈の復権と再創造につとめたいと思います。

 さて初回はフィールドワークについてです。その昔、坂本龍一に「フィールドワーク」というシングルがありました。社会学系では参与観察と言っていた時代だったので、非常に新鮮に感じた記憶があります。そのあと佐藤郁哉さんの『フィールドワーク』(新曜社)が出て、こういう本の書ける方をうらやましく思ったものです。

 これはシラケ世代社会学徒の個人的な思いですが、そういうフィールドワークへの憧れを多くの社会学者に植え付けたのは、ホワイトの名著『ストリート・コーナー・ソサエティ』でした。この本は1943年に出版された都市フィールドワークの傑作で、すでに1974年に寺谷弘壬訳で翻訳も出ています。

 この研究は、若きホワイトがコーナーヴィル(のちにボストン市内のノースエンドと明かされる)というイタリア人居住地区に住み、その住人たちの独自の社会的世界を描いたものです。ここは問題地区とされていましたが、ホワイトはそこに細やかに編成されたひとつのコミュニティを見ます。そして低階層の若者たちの仲間集団と大学生クラブの生態、ヤクザの顔役と政治家たちの密接な関係を、その内部から描きます。とくに後者の、賭博をめぐる巧妙な知恵のシステムには目を見張ります。

 この名著の新しい翻訳が今年4月有斐閣からでました。こちらは1993年の増補改訂第4版(50周年記念版)の完訳になります。

 何がちがうのかというと、アペンディクス(付録)として第2版からつけられていた自己言及的なフィールド体験記が大幅に増補されたことです。もともとこの本が読まれるようになったのは第2版にアペンディクスがついてからでして、巷の教科書に古典として紹介される場合も主としてこの部分に拠っていました。そしてついにこの部分が原著で100ページを越えるものに増補されたのです。とくに「五〇年後の『ストリート・コーナー・ソサエティ』再訪」が新たに加えられたことが注目です。

 と言っても、これはいわゆるメデタイ50周年記念ではないのです。1991年と翌年にあいついで本書が論争的に取り上げられたことに対する著者の反論なのです。とくに「倫理的に重大な過失」と非難されたことには念入りに反論しています。また、従来指摘されてきた「シカゴ学派のスタイル」とも当時は無縁だったこと、社会学者としての自覚もなかったことなどが述べられています。

 おそらくフィールドワークはもともと自己言及を強いられやすい研究スタイルなのだと思います。対象を描くそのまなざしが問われやすいんです。でも、そうしたナイーブさそのものがフィールドワークの魅力なんでしょうね。

 以下では、フィールドワーカーたちが自分自身の調査活動について語った最近の著作を並べてみました。そして、これまで社会学にはどんなフィールドワークがあったのかを教えてくれる便利な本もご紹介しましょう。

■『ストリート・コーナー・ソサエティ』
W.F.ホワイト著 奥田道大(おくだ・みちひろ)訳 有里典三(ありさと・のりみつ)訳 有斐閣
本体3800円  22cm 394p
分類:361.6 件名:社会集団 00019728
4-641-07625-1 / 2000.04 対象:般
【コメント】こういう古典の新訳は歓迎である。フィールドワークのお手本と評された研究には長い自己言及が必要だったというのがおもしろい。そしてフィールドワーカーはつねに饒舌である。

■『フィールドワークの経験』
好井裕明(よしい・ひろあき)編 桜井厚(さくらい・あつし)編 せりか書房
本体2400円  21cm 248p (Serica archives )
分類:361.9 件名:社会調査 00023040
4-7967-0225-3 / 2000.05 対象:般
【コメント】日本社会学の代表的なフィールドワーク作品の著者が勢揃いして、自らの仕事を語った論文集。暴走族と現代演劇の調査で有名な佐藤郁哉の回顧などが興味深いが、ゴッフマンとサトルズによるフィールドワーク論の翻訳も貴重。

■『フィールドワークを歩く――文科系研究者の知識と経験』
須藤健一(すどう・けんいち)編 嵯峨野書院
本体3500円  21cm 398p
分類:002 件名:学問 96023647
4-7823-0233-9 / 1996.06 対象:学術
【コメント】社会学・民俗学・文化人類学・文学・歴史学・人文地理学の分野で活躍する日本のフィールドワーカー38人が思い思いに調査経験を語ったもの。へたなハウトゥものよりもはるかに実際的。

■『シカゴ社会学の研究――初期モノグラフを読む』
宝月誠(ほうげつ・まこと)編 中野正大(なかの・まさたか)編 恒星社厚生閣
本体9500円  22cm 595 13p
分類:361.253 件名:社会学-歴史 97048755
4-7699-0858-X / 1997.11 対象:実務
【コメント】トーマスとパークによってさまざまな都市フィールドへ乗り込んだシカゴ学派のフィールドワークを俯瞰する解説書。


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SOCIUS.JPドメインへの初出 7/20(thu), 2002  
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