野村一夫『ゼミ入門』 (6)もうひとつの上級編

■卒論、ゼミ卒論、卒業制作
 学部生活の上級編となると、4年生のゼミで取り組むのは卒業論文やゼミ論文のたぐいである。それらについては「論文の書き方」のような類書がたくさん出ているので参考にして取り組んでほしい。本書は「ゼミ入門」なので、これについては触れない。
 私の考えでは、あくまでも本気で取り組むという前提の上で言うと、この時代、論文でなくても、何かコンテンツを作るか、結果を残すのであれば、形やスタイルやメディアは何でもいいのではないか。つまり何か「制作物」「作品」でよいのではないかと思う。
 三年生の場合には、ゼミ論として何か研究した実績を残しておかないと、就職活動で「どんな勉強してきたの?」と訊かれたときに困るだろうから、それはそれでやっておく必要はあると思う。けれども、四年生の後半ともなると、学部時代の総仕上げとして何か「作品」を作っておくべきである。
 論文以外となると、アカデミックである必要はない。映画(動画)でもいいし、雑誌でもいいし、ルポルタージュや旅行記でもいいし、自伝小説でも物語でもライトノベルでもコミックでもブログでも写真集でも演奏でもよい。何か文化的なコンテンツであればいいと私は考えている。ただし「労作」であることが条件である。時間をかけたものであれば、おのずと作品性も高まるし、学生時代ならではのものになるだろう。めざすべきゴールは「500」である。写真集なら500枚ということだ。それも、すべてにキャプションぐらいつけないとおもしろくない。かなり妥協しても、せめて「100」はないと「労作」とは呼ばない。天才でない限り若いうちは質に限界があるものなので、分量を桁違いにしないと評価はできないものである。しかし、学部時代にある程度の分量を達成したという成功体験を積んでおくことは将来必ず役に立つ。
■パチンコ玉理論
 最後に上級編のヒントを書いておきたい。私は十年来それを勝手に「パチンコ玉理論」と呼んできたので、ここでもそれで通そうと思う。
 たとえば、ここにパチンコ玉がテーブルの上にひとつあるとする。そのパチンコ玉をよく見てみよう。そこには周囲のすべての光景が映し込まれているはずである。しかも、それを見ている自分の姿も映っている。パチンコ玉自体は小さな球体に過ぎないが、それをじっくり見ることで、そのまわりにあるものが全部見えるということである。
 同様に、どんなに絞り込んだテーマであっても、そこには全世界のさまざまな問題が映し込まれているのである。そういう前提で取り組めば、小さな現象をテーマにしていても、それを詳細に調べることによって、さまざまな大きな問題について考える糸口になるはずである。詳細に調べるためにはテーマを絞る必要があり、絞ってもそれを解く自分の姿も含めて(自己言及)議論を広く展開していけばよい。
 そのときに、広い教養が生きる。それがあれば、いろいろ思いつくはずである。想像力も働く。テーマを絞った一点突破でありながらも広い視野が開けるのであれば最高である。
■勉強こそ貧者の武器、ゼミこそ勉強のエンジン
 ここに書いたことは、長年の教育活動と、国学院大学経済学部の「基礎演習A・B」(1年生対象)と「演習I・II・III」(2年生から4年生対象)、そして1・2年生向けの講義の中で日常的に話してきたことである。参考文献は事前にかなり用意して臨んだものの、自説を展開するので精一杯だった。およそ20年前に書いた『社会学の作法・初級編ーー社会学的リテラシー構築のためのレッスン』(文化書房博文社、1995年)の人文社会系ゼミ版という流れになったかのようだが、本書は「ゼミ入門」なので、ひとまずこれで終了とする。
 どうか、この段階に満足せず、一流の大学生として成長し続け(ちなみに成長し続けることこそが「一流」の条件である)、そして、ぜひ教養ある社会人(私はあえて「中間知識人」と呼びたい)になっていただきたい。昔ながらの「勉強して立身出世」の時代はとっくに終わったかのようだが、グローバル化の激流の中にあっては「勉強こそ貧者の武器」「勉強こそ突破口」だとしみじみ感じる。じつは勉強が一番コストが安いのだ。あなたは、どうだろうか。
 最後に一言。勉強はひとりでするものではない。先生や勉強仲間といっしょでないと、持続するのはなかなか難しいのだ。だからゼミが必要なのであり、大学の勉強のエンジンはゼミなのである。そして、みんなで賢くなっていくのがゼミである。
■本書のあとに読んでほしい本たち
 梅棹忠夫『知的生産の技術』を読んで以来、勉強の仕方について書かれた本はおおかた読んできた。もともとは学生に薦めるための本探しだったが、今では趣味のようなものになっている。その中から、本書が想定している初級段階の次とまたその次の段階に進む人のために、いくつかの本を薦めておきたい。かなり厳選したつもりである。すでに本文で触れた本は除いた。さらにものたりないときは、これらの本の近く(図書館であれ書店であれアマゾンであれ・・・)にある本を見てほしい。
・難波功士『大二病ーー「評価」から逃げる若者たち』(双葉新書、2014年)。
・東郷雄二『[新版]文科系必修研究生活術』(ちくま学芸文庫、2009年)。
・ハワード・S・ベッカー『論文の技法』佐野敏行訳(講談社学術文庫、1996年)この第二版が『ベッカー先生の論文教室』小川芳範訳(慶應義塾大学出版会、2012年)。
・平岡公一・武川正吾・山田昌弘・黒田浩一郎監修『研究道ーー学的探求の道案内』(東信堂、2013年)。
・リチャード・S・ワーマン『それは情報ではないーー無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン』(エムディエヌコーポレーション、2001年)。
・松岡正剛『知の編集術ーー発想・思考を生み出す技法』(講談社現代新書、2000年)あるいは松岡正剛『知の編集工学』(朝日文庫、2001年)
・松岡正剛『ちょっと本気な千夜千冊 虎の巻ーー読書術免許皆伝』(求龍社、2007年)あるいはウェブで「千夜千冊」を検索して千冊読破とはどういうことかを知る。現在は千五百冊を突破。(http://1000ya.isis.ne.jp/top/
・トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー『クリエイティブ・マインドセット』千葉敏生訳(日経BP社、2014年)。